Underworld

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「さて貴女は……どうされますか」 ルゴールドの視線は意志表明を済ませていない最後の一人、レピンスに向いた。 この一言は単なる問い掛けでは括り切れないほどに重い。その理由が理解できるのは、当人を除くと楠木のみ。バニアス、ネスレ、エルトの三人にそれが知れ渡った時、レピンスはこの世界に居場所を失うと言っても過言ではない。 「わ、私は……」 心臓が高鳴り、肺が縮んで声が震える。自分は大きな過ちを犯し、皆に多大な損害を与えた。それを取り返せるかどうかすら未だに分からない。だからこそ、取り返すために『行く』と言わなければならない。 だがそれは当然、この上なく明らかな組織への反逆となる。この世に生を受けてから今の今に至るまで、永きに渡って自分を支配し続けて来たアッシュ・グリスタに、弓を引くと言うことである。 「おい、無理をすることはねえぞ」 レピンスの身の上を知っているバニアスは、その恐れを察して勇み足を止めようとした。 越光と有子を救うためには一人でも多くの協力が必要だと言うことは分かっている。しかし、自分に会うために、自分がいるこの世界に辿り着くために、再び手を血で汚し孤独な旅路を歩き通したレピンスをもう一度龍の世界に送り返すのは余りにも忍びなかった。況してや、その先で相手にするのは元々レピンスが属していた殺し屋組織である。 「分かっている。これは、無理などではない。いや仮にそうであったとしても、乗り越えねばならない試練だ。私は、選ばなければならないんだ」 仲間が攫われた。実害が出てしまった。情報を渡すだけならバニアス達の不利益にはならないと言うアッシュの甘言を妄信することはもうできない。 組織か、バニアス達か。どちらかに背き、どちらかに与する。決断をこれ以上先に延ばすことは不可能であった。
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