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スカートを履いた日
「腹減った……」
ネオンに照らされたアスファルトが、歪んだ万華鏡のように揺れる。
もうどれほどまともな飯を食っていないだろうか。公園の蛇口で水をがぶ飲みしたのさえ、遠い昔のことに思える。
「何が、トランクひとつに夢だけ詰めて、だよ」
くだらない、くだらない。
雑誌の後ろに描かれていた華やかな世界は、紙より脆い作り物。
それさえ見抜けずに本当にトランクひとつで飛びだした俺は、どうしようもない愚か者。
本当に、何もかもくだらない。
「もう無理。うごけねー」
道端で大の字になってぶっ倒れても、誰も振り返りはしない。
狭くて汚い路地裏を全部、嘘と欺瞞で塗り固めてさ。俺みたいなやつが、そこに飛び込んでいって。挙句の果てが成れの果て。こんなざまじゃあ天国にも行けるかどうか。
「店の前で寝られると、邪魔なんだけど?」
歪んだ視界に、とつぜんゴリラが入り込んできた。
なんてこった、死ぬときは天使が迎えに来ると信じていたのに。
「都会の天使はゴリラかよ、夢がねーのな」
「ああっ!?」
ゴリラが不快そうな声をあげた。おまけにカツカツとうるさく地面を叩く。
ドラミングのように刻まれるゴリラビート。
カツカツ、カツカツ。
ドコドコ、ドコドコ。
ドンドコカツカツ、ドンドコカツカツ。
原始のリズムに、夜空がうごめく。
認めたくない汚い幻想空間に、俺の意識はおぼれるように沈み込んでいった。
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