スカートを履いた日

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「うっ……」 「目が覚めた?」 「いきなりゴリラッ!?」  不快な眠りから目覚めると、目の前に金髪ゴリラ。  オーマイガー、神様ここは天国ですか? 地獄ですか?  ゴリラは俺の意識が戻った事を確認すると、素早く手首や首筋にごつい手を差し込んできた。無骨な腕なのにするりと入りこむ謎のテクニック。相当に手馴れた感じがある。ゴリラの国の入国審査だろうか。 「俺は、人間で……」 「まだ呆けてるみたいね。ふんが!」 「いてぇ!」  ゴリラが思い切り俺の頭をはたく。絶対今頭の上で星が回ってるだろコレっていう衝撃とともに、視界が晴れる。俺は辺りを見回した。 「ここは?」  暗めの照明に照らし出された室内。  木目調のカウンター机の奥に、酒の瓶がいくつも並んでいる。バーカウンターってやつか。黒が基調のシックなイメージの室内だが、時折り壁にわけのわからない絵がかけられたり、妙なへこみがあったりするのが印象的だ。  広さとしてはカウンター席に八人、横にテーブル席がふたつほどか。  全身を包むような柔らかさに気付いて、自分の周囲に視線をめぐらせる。俺が寝かされているのは、革張りの高級そうな黒いソファーであった。  金髪のゴリラはそのソファーの前で仁王立ちしている。  奥では黒ベストを着た男が、カウンターの裏で洗い物か何かをしている。恐らく、ゴリラの召使いだ。かわいそうに。 「アンタ、店の前に倒れてたのよ。覚えてないの?」 「倒れて? あっ……」  ぐ~。  記憶が戻ると同時に、数日間まともに食事していない腹の虫が大きな音でなった。 「身体は正直ね、ほら。動ける?」  ゴリラが腕で俺を抱え上げるようにして持ち上げた。なんという怪力。俺はあっという間にカウンターの椅子まで運ばれ、気付けば席に座らされていた。  リクライニングゴリラ。  頭のなかで俺を運んでくれた親切なゴリラにあだ名をつけた。 「あたしの名前はエリザベス茂美(しげみ)。あんたは?」  俺がつけたあだ名は、一瞬で破壊された。  しかも、さらなるインパクトのある名前によってだ。 「俺は、藤岡彰人(ふじおか あきと)」 「古賀史明(こが しめい)だ、よろしくな」  カウンターの男がいった。長い髪の間からのぞく、涼しげな目元に整った顔立ち。すらりと伸びた手足はテキパキと動き、いかにも出来る感じの男に見えた。  ありていに言えば典型的なイケメンで、ゴリラの好みも案外と王道らしい。
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