スカートを履いた日

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「じゃ、ふたりともさっさと食べちゃいなさい」  ゴリラ、もとい茂美はカウンターの奥からふたつのどんぶりを持ってきた。  目の前に置かれたどんぶりからは、食欲を刺激するいいにおいがしている。  色合いの違う肉が半分ずつ、山盛りに盛られている丼だ。おそらく片方ば豚肉、もう片方は牛肉だろう。細く刻まれたたまねぎと長ネギがタレの色身に染まってよく肉に絡んでいる。  焦がしネギと焼いた肉の香りに、俺の腹が早くよこせと催促を始めた。 「これ、食っていいのか!?」 「どーぞ。あたしは着替えてくるわ」  茂美がにっと笑って箸を差し出し、ドアの奥に消える。俺は出された箸を掴むとどんぶりを抱え込むようにして肉と飯を口いっぱいに頬張った。 「うんめぇ!」  薄切りにされた牛肉は柔らかい食感で、よく炒めたネギとともにたまらない甘さが口の中に広がった。ネギの香ばしい香りとともにしょう油ベースと思われるタレのしょっぱさとニンニクの風味がアクセントになり、さらに食欲を刺激する。  豚肉に箸を伸ばす。  こちらも口のなかでとろけるように柔らかだ。丁寧にお酒かなにかに漬け込み、下ごしらえが入念にされているのだろう。しょうがベースで味付けされており、牛肉のこってりした味わいとは異なる味わいが丼を飽きがこないものにさせていた。  数日ぶりのまともな飯、それも特上の一杯に感動する俺の横に、バーテンダーの男、先ほど古賀と名乗った青年が座った。  並んで飯を食い始める。 「ずいぶん腹を減らしていたみたいだが、この『豚と牛の訳アリ合い盛り丼』は空きっ腹には結構重い。念のため食後にでもこいつを飲んでおけ」  そういって、目の前に胃薬のカプセルを置かれた。こいつ、イイ奴だ。 「ありがとう。ぷっはぁ~、めちゃくちゃうまい! 生き返ったぁ!」 「これからよろしくな、彰人」 「よろしく?」 「同じ『カマ』の飯を食った仲、だろ?」  古賀が親指でドアを指差した。その先には、茂美が入っていった部屋がある。 「同じ釜の飯を食う? 同じカマ……おんなじオネエのね。なるほど!」  皮肉の利いた冗談に、思わず手を打った。  こいつとは、もしも友達だったらうまくやれるかもしれない。  そんなことを考えていると、件のカマのドアが開いた。そして奥からはちきれんばかりに膨張した、ピンクの半袖のドレスを身に纏ったエリザベートなゴリラが現れる。  揺れるフリルはまるで体毛のごとし。とんでもないインパクトであった。  うっわぁ。腕、太っ……! ってちゃんと毛は全部剃られてるしっ!  ドシンドシンと足音を立てて接近してきたゴリラが、ドン! とひとつドラミング、もとい胸を叩いた。 「ほ~ら、食うもの食ったら支度よ支度!」 「支度?」 「見ての通り、ここは女装バーだからな。もうすぐ開店時間なのさ」 「マジか! それじゃあ俺がソファー席にいちゃまずいよな。えっと、この度は、どうもありがとうございました、このご恩は」 「待てい」 
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