スカートを履いた日2

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 泣いている野木さんの震える肩をじっと見つめて、胸の内側がちくりと痛む。  思い描いた普通の大人は、普通じゃないほど大変なんだ。  トランクひとつで勝手に家を出てったバカな俺だって、世間からすればただの大人か。それも、大のバカ大人だ。  誰にだって、それぞれの痛みがある。  野木さんの号泣が落ち着いてきたころ、茂美はタバコを取り出した。 「一本、いい?」  そう聞いた時には、すでにタバコを口にくわえて着火していた。どうやら先ほどの問いかけの答えは『はい』か『YES』しか用意されていないらしい。  ゆっくりと大きく茂美がタバコを吸う。  吸う。……吸う。…………吸う。  ってなげぇよ!  エリザベス茂美。  一息でタバコ一本を吸いきるゴリラである。  鼻から蒸気機関車のように煙を噴き出すゴリラが、消し炭と化したタバコの端を指でつまみながら野木さんに語りかける。 「会社も家も、つらかったわね」 「うん……」  タバコを持った手を、野木さんの肩に回す。  吸い尽くされたタバコの灰が、盛大に野木さんのスーツに降り注ぐ。っておい!  野木さん、あんた頷く前にそのゴリラ殴っていいと思うよ。 「中学生の娘が懐いてくれなくてさ。それが本当につらい。俺、家族のためにこんなになっても働いてるのに」 「おうちのために、仕事しているんだもんね」 「うん。だけど、働けば働くほど娘は離れてく、それがどうしようもなくつらいんだ」 「そういう年ごろなのねぇ。娘さんと、仲良くしたい?」  茂美の言葉に、野木さんは何度も頷いた。 「どこか連れてってあげたい。一緒に夕飯を食べたい。買い物に出かけたいし、洗濯物も同時に回したい。それにお風呂に一緒に入りたい」 「最後のは難しいわね」 (最後のは難しいだろ)  ツッコミが、茂美とかぶった。  風呂うんぬんはともかくとして、俺の親父もこんなふうに思っていたのかな?  野木さんを見ていると、自分の父親を思い出す。メールも電話も、まったく返していない。今の自分が情けなさ過ぎて、どうしても返せない。心配かけてるんだろうな。
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