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隣の席は空席のままではあるが、入学式は順調に進む。
「新入生代表挨拶。A組、皆川宙。」
「はい。」
隣の少年と「隣の空席の子、新入生代表だったんだね。」と小さな声で会話する。
壇上に上がる姿が見え、天は新入生代表の少年、皆川宙に目を向ける。
ミルクティー色の柔らかそうな髪が段を上がる度にふわふわと浮く。
なんだかあんなふわふわを見たことがあるなぁと既視感に見舞われながら何故こんなにも懐かしい感覚に陥るのか記憶を辿る。
喉元まで出かかっているのに思い出せずもどかしく感じていた天だったが、少年が演台の前に立った時、その蒼い瞳に引き寄せられた。
「あっ………」
演台の前に立ったのはあの日の少年だった。
驚きで漏れる声にも気付かず、天は少年を見つめる。
そして少年も天も気付いたようで、一瞬瞳を丸くし、天を見つめる。
瞳が合ったのは一瞬のことだったのだろう。
しかし、それは天にとって数十秒にも、数分にも感じる不思議な感覚がだった。
まるであの日のように。
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