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「んんんうっ」
男の声が急にくぐもった。かと思うと、自分を拘束していた力が抜けるのがわかり、男がソファ脇に落下した。
「ううううぐあああっ!」
何かよくわからないが、チャンスだ。
桐岡は慌てて起き上がると、背もたれ側に身をひるがえし、向こう側に着地した。
男はひっくり返ったまま足をバタバタと動かし暴れている。
その口からどす黒い血液が溢れ出してくる。
―――なんだ?持病か?天罰か?……まさか。
何をすることもできずにそのまま呆然と見下ろしていると、口だけではなく、腹部から、胸から、次々にスーツに血が滲みだす。
そのたびに男が、
「うっううっ」
と悲痛な声を出す。
ゆっくりソファから回り込み、男を見下ろす。
ばたつかせていた手足はビクビクと痙攣に変わっていた。
もう意識はない。
屈んで覗き込む。
この男に何があったのだろう。きっと現実世界の方で何かが起こっているのだ。
次々と滲む血、内臓からの出血により喉にせり上がってきた血液。
刺されているのか?
誰に?どうして?
男の体の動きが止まった。
見開かれた目を見る。
「—————っ」
桐岡はその瞳に映っている光景に息を飲んだ。
「————どういうことだ?!」
その瞳に映っていたのは、先ほどまで自分を好き勝手犯し、殴りつけていた男の顔だった。
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