被食 8日目

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目を開ける。 ――――ここは、どこだ。 組の人間とすこぶる酒を酌み交わした後だった。 飲んでいる薬にアルコールの相性は悪いことは知っていたが、今日だけは無理をしてでも飲む必要があった。 親父との別れ酒。 それは自分の体が全てアルコールに溺れるほど、飲まなければならなかった。 ーーー人生で一番酒を飲んだのは、親父が死んだときでしたよーーー いつか空の上で―――いや、地獄の荒野で、鬼の屍山の頂上で親父と酒を酌み交わす際に、そう言えるように。 しかし―――。 慌てて身を起こす。 オレンジ色の間接照明。 二人掛けの黒いソファ。 重そうなテーブル。 背もたれがやけに長いダイニングチェア。 ―――嘘だろ。 全身に冷たい何かが回っていく。 身体を見下ろす。 やはり桐岡は椿の姿をしている。 ―――なぜ。 目の前に緑色の閃光が飛び散る。 ―――嘘だ。 ―――あいつは死んだはずだ。 ―――じゃあ、誰だ。 緑色の光はだんだん人の形をしていく。 兎本よりも手足が長く、頭が小さい。 上質なスーツを着ている。 それは良く知っている。GUCCIのロンドンツーピーススーツだ。 上質な靴を履いている。 それもよく知っている。 サントリーニリミテッドのクロコダイル。 振り返った“桐岡翼”は、こちらを見下ろし、嬉しそうに笑った。
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