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「季逸さん……、近くで見ると凄く美人ですね」
笑みを浮かべるでもなく藍生はサラッとそんなことを口にした。
「は、はあぁ? そんなこと言って、私の魂を吸うつもりだろう?」
季逸は顔を真っ赤にしながら胸にノートをギュッと抱いて後退った。
「魂は要らないかな、人の温もりは欲しいかもですけど」
藍生がスッと椅子から立ち上がり、季逸に近付いていく。
「おまっ、このタラシ!」
顔を真っ赤にしたまま季逸はノートと鉛筆を交互に見て、鉛筆を藍生に向かって投げつけた。それを藍生は反射的にキャッチする。
「いや、変な意味じゃないですよ? 人に近付けたら俺もまだ人なんだって思える気がして……」
――人として罪を償いたい。吸魂鬼の遺伝子を弱体化させることが少しでも償いになるのであれば、俺はいくらでも実験に協力しよう。
「……」
藍生の言葉を聞いて季逸の動きは完全に止まった。そして、「……ちょ、ちょっとだけなら、胸を貸してやらんでもない」と照れたように視線を横に逸らしながら、ぼそりと言った。
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