清涼飲料水を1杯。それと、おつまみを。

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お父さんは、酒呑みだった。 だからと言って、アルコール中毒とかではなく。 仕事終わりに一杯やって帰ってくる、休みの日に近所の公園でランニングして帰宅したらシャワーを浴びて冷蔵庫のビールを開ける、たまには休肝日と言ってお酒の代わりにコーヒーを嗜む、そういうただの一般的な酒呑み。 うちはお母さんが下戸だから、物心ついた時には、お父さん=お酒を飲む人という等式は至極当然なものとして理解していた。 他のご家庭の事情は、小学生女子児童が知る筈もなく。 ただ親戚の集まりに出向くと、「お父さん」している人は大体何かしらのお酒を飲んでいた。 「お父さんに似たらきっと大酒呑みになるぞ」とか「ロクなことになんないからやめとけ」とか。「お父さん」たちは楽しそうに笑っていた。 私はそれらに曖昧に頷いていた。父の血も継いでいれば、母の血も継いでいる。きっとお酒が飲めるようになる頃には、どっちに似ているか、分かるはずだ。 その時に想像したお酒の味は、なんだかふわふわしてて、甘いような感じがした。 でも、飲んだくれはめんどくさい。 夜、酒臭い息を吐き散らしながら帰ってくる。「ただいま」の声だけで鼻が曲がる。 遅くまで飲み会で、タクシーを拾って家まで帰ってくる。お金がもったいないとお母さんに怒られていた。 夜ご飯の時に声が大きくなる。うるさい。 彼氏に振られて悲しい時に、お酒を飲んで一人だけハッピーな気分になってる。ちょっとくらい察しろ。 大学受験で第一志望の学校に合格した。私より喜ぶ。そして絡む。お風呂入って、寝るって時まで絡む。眠れない。案の定、翌日、二日酔いで会社を休んでた。 以上、飲んだくれはいいことがほぼない。 ほぼ、というのは例外的に一つだけいいことがあるからだ。 それは、お酒のおつまみ。 柿の種とかエビせんべい。アーモンドにナッツ。普段なかなか食べられない高級チーズと生ハムとか。これ以外にも数えきれないほどの絶妙なおつまみのご相伴に与ってきた。 同級生の女の子たちが好きそうなクレープとかパンケーキとか、美味しいのは分かってるけど、そんなものよりコンビニのおつまみコーナーにあるさきいかとか炙り明太チーズとかの方が安価で美味しいと感じてしまう。 その美味しさを知ってからの親戚の集まりでは、「なるかもね」から「なるわ」と半ば諦めのように言われることが増えた。きっとお前はお父さんに似て、大酒呑みになる、と。 それらと一緒にお酒を飲んだら美味しいんだろうな、とは想像ができない。自分にとってはただ美味しいから食べてるのだ。お酒と合わせる、という発想がない。 けれど、なんとなく、この時点で分かっていた。 私はこの先一生お酒は飲まない。 肝機能を悪くしたくないとか、飲んだくれたお父さんのようになりたくないとか、色々あるんだけど、やっぱり怖いのだ。 お酒の席で失敗した話とか、飲みすぎて病気になるとか、10代後半の乏しい想像力なんかじゃ及ばないから、だからこそ奈落の底を覗くような恐怖に、お酒は変貌した。 そんな私の気持ちを知ってか知らでか、お父さんは「お前は酒を飲むな」、そう言った。 大学の入学式の前日だった。
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