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本当に先輩はお酒に詳しいらしい。
そして私の体質も、とても飲酒に向いていたらしい。
3週間弱の特訓で、私は1日たりとも酔うことはなかった。
(もちろん、必ず2~3日空けての飲酒だ。)
ふわふわもせず、ふらふらもせず。
だが先輩は驚くこともなく、自分のグラスをちびちびやっていることがほとんどだった。
6月第3金曜日。
「お疲れ様でした」と一言挨拶を交わし、エレベーターを待っていると、先輩が細長い紙袋を持ってやってきた。
「これ。俺からの父の日餞別」
中を覗くと、1本のビンが入っている。
「お前が飲めそうなやつを選んどいた。冷蔵庫で親父さんにバレないように冷やしとき。あと日曜まで酒は飲むなよ?昨日飲んだばっかなんだから」
「あ、ありがとうございます…!父さんと一緒に飲ませていただきます…!」
突然のサプライズに驚いてペコペコ何度も頭を下げた。先輩は軽く頷くと、くるりと背を向けてデスクに戻っていく。その後ろ姿に対して私は見えなくなるまでずっとお礼を言い続けた。
私は逸る心を抑えて帰路につく。
冷蔵庫のどこに入れればバレないかな?どのグラスで飲めばいいかな?お父さんはどんな反応をするかな?
大事なものだから、と紙袋を抱えて信号を待つ。
突然、強い光に顔面が照らされた。
身体が軽く吹っ飛ぶ。
最期に見たのは、ビンが割れて、中身が地面に水たまりを作っている光景だった。
もったいないことをしちゃったな。
あれはお父さんと飲む初めてのお酒だったのに。
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