清涼飲料水を1杯。それと、おつまみを。

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俺は、酒呑みだった。 今は酒の類は一切飲んでいない。 とある事故が原因で、それ以来、酒を断っている。 飲酒運転のトラックが突っ込んできた。 あの子は即死だった。 俺とは違い、酒も飲まない真面目な子だった。 あれから1年が経つ。 自棄になって何度かビールの缶を開けようとしたこともあった。 けれど、あの子の顔を思い出してしまって力が抜けてしまう。 そして断念する。その繰り返しだった。 一周忌、娘の命日にスーツ姿の1人の青年が俺を尋ねに来た。 そしてそいつは俺が玄関に出るなり、急に涙を流して土下座をしだした。 「申し訳ございませんでしたっ!俺はっ、娘さんに嘘をついていました!」 俺が面食らっていると、彼は顔を地面につけたまま、滔々と語りだす。 彼は娘の教育係の先輩だったこと。自分は酒を嗜み、それが理由で娘の相談に乗っていたこと。そして娘は、とあるCMを見て、「お父さんは自分と一緒にお酒が飲みたいんじゃないか」と悩んでいたこと。それを聞いて、娘の願いを叶え、且つアルコールを摂取しないように酒と偽ってノンアルコールを飲ませていたこと。事故のあった日は自分がノンアルコールの酒をプレゼントしたこと。 すべてを語った。 「俺が余計なことをしなければ、娘さんは……」 そこから先は涙に呑まれて聞き取れない。 「すみませんでした……おとうさん……っ!」 上がっていかない?という妻の誘いを断って、彼は家を後にした。 ただ「これは、娘さんとご一緒に……」と置き土産を残していった。 俺はそれを冷やしておいた冷蔵庫から取り出す。 栓を開けて、あの子のお気に入りのグラスと俺のコップに注ぐ。 あの子の前にそっと置いてやる。 一口。 「はっ……お前はこれが酒だって言うのか?ははっ……」 でも、 「娘と飲む酒も、悪くないなぁ……」
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