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◇◇◇
「鈴木さん。配給ですよ」
市役所の山下さんがビニル袋に入った支援物資を渡してくださった。
「ありがとうございます」
そう言って受け取り、中を開いてびっくりした。
化粧品が入っている。まさか、避難所に化粧品が届くとは思わなかった。
すると山下さんが言った。
「鈴木さんに真っ先に使ってほしいって、福井さんが言ってましたよ。一昨日、市の職員が必要な支援物資をとりまとめるときに福井さんが来て、『薬用化粧品』を希望の支援物資に入れていただけませんか? と頭を下げておっしゃったんです。なるほど……男性ではなかなか気付かないことですが、きっと女性にとってはとても大切で必要な物だって思ったんです。なので避難所からの希望の支援物資に化粧品を入れておいたんです。そしたらある企業さんが試供品のセットをたくさん送ってくださいました」
山下さんの言葉を聞き、私は福井さんの優しい心遣いに感動した。
その日は、グラウンドに自衛隊による臨時のお風呂も設置された。
ここは温泉街じゃないけれど、お風呂のお湯は気持ちがよかった。嫌なことも含めてすべてを洗い流してくれたようで身も心もさっぱりした。
お風呂を出てブースに戻ると、避難袋に入っていた小さな手鏡と化粧水を取り出した。
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