私は、避難所で神様に出会った

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 ◇◇◇  昨日はなかなか寝付けなかった。夜中に何度も起きて、夜空を眺めたり、遠くに広がっている黒い森を見たりした。  「鈴木さん、少しは寝てくださいよ。そんな風じゃ体を壊しますよ」  避難所で隣のブースに寝泊まりしているおばさんが声をかけてきた。でも、眠れないものは仕方がない。寝ようとすると、3日前の出来事が頭を(よぎ)る。  ◇◇◇  一昼夜降り続いた雨は、近くの川を氾濫させた。私の家も濁流に飲まれ1階のものはほとんどさらわれてしまった。  私の母は足が不自由だった。急な増水に母は、「私は私で何とかするから、由衣花(ゆいか)は早く避難しなさい」と何度も私に言った。でも、母を見捨てて避難することなんか出来なかった。  氾濫した川の暴れかたは凄まじかった。母を必死に2階に避難させようとしているうちに大量の水が押し寄せ、母をさらっていった。手を伸ばしたけれど間に合わなかった。何度も「お母さん」と名前を呼んだ。耳の奥底に残る母の悲鳴。自然というのは、どうしてこんなに(むご)いことをするのだろう。  水は、あっという間に2階の床にまで及んだ。私は命からがら階段を上がり、くるぶしまで水に浸りながら2階ベランダから助けを求めた。でも、なかなか救助は来ず、自衛隊のヘリコプターで救助されたのは翌日の朝。宙づりになってから下を眺めると、大地が水で覆いつくされ灰色の空を映している。人々の住処は孤島のように見えた。  私にはもう住むところがない。生きる気力もなくなった。 .
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