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次の日、トイレに入って「おや?」と思った。避難所のトイレが綺麗になっている。
市役所の山下さんに「トイレの掃除、ありがとうございました」と言うと、「私じゃありません。昨日避難されてきた福井さんですよ。ここに来るなり『何か手伝うことはありませんか』って。前向きな方で頭が下がります。とりあえず清掃をお願いしたところ、いつも暇な時間になると体育館の清掃をしてくださっています」
福井さん……っかあ。どんな人なのだろう。
ふと体育館を見渡すが名前も性別も顔も、何も分からない福井さんを見つけることなんてできなかった。
でも、福井さんが来てから避難所が変わった。トイレも洗面所も綺麗になった。避難所全体が明るくなった。
そんなとき、思いがけず福井さんを知ることになる。
粗末な夕食の後に30代くらいの男性が体育館の舞台に立ち「僕、福井です」と名乗ったのだ。そして、簡単なレクリエーションを始めた。じゃんけんとか、紙に16マスを書いて楽しむビンゴだったりとか、本当に簡単なゲームばかりだったけれど、娯楽がなかった私たちの心に潤いが戻った。
彼はこんなに辛い中でも、生き生きとしている。
私は福井さんの姿を見て、「自分も、避難所のためにできることから始めてみよう」と思った。
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