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翌日から私は、体育館のトイレ掃除を始めた。早朝6時。汚れた便器の前に立つ。バケツにくんだ水にぼろぼろの雑巾を浸して絞り、磨き粉をつけて便器をこする。汚れがみるみる落ちて陶器の真っ白な生地が浮き出した。それが嬉しくて他のところも磨く。
「何だか、すっきりするぅ」
掃除を終えてトイレから出たとき「えっと、鈴木さんですよね?」と声がかった。福井さんだ。
「あ、はい。おはようございます」
「おはようございます」とあいさつを返す福井さんの笑顔は素敵だ。ぴっちりと張った頬に優しそうな瞳。外連味のない実直な姿が彼を一層清々しくしている。
「やっぱり。市役所の山下さんが言ってました」
「そうなんですか。私、福井さんとお会いできて嬉しいです。福井さんがおみえになってから避難所が明るくなりました。それが嬉しくて、少しでもお手伝いできたらと思って……」
「ありがとうございます。一緒にがんばりましょう」
福井さんの服は酷く汚れていたけれど、笑顔はピカピカだった。
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