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翌日の午後、自衛隊によって支援物資が届けられた。その中には大手コンビニチェーンからの差し入れも入っていて、久しぶりに、美味しいご飯を食べた。白米のおにぎり、中に梅干しやシーチキンが入っている。普段なら何気なく手にして食べてしまうものだけれど、このときのおにぎりは本当に美味しかった。
福井さんも、頬張るようにしておにぎりを食べていた。こんなに旨そうにおにぎりを食べる人はいないと思う。胸のつかえがすうっと取れたようになり、私は呟くように言った。
「母を水にさらわれたんです」
福井さんは、口の中のご飯を思わず飲み込んでから言った。
「それは大変でしたね。お気持ちお察しします」
私は、彼の言葉に心が解かされたように、自分が独身で身寄りのいないこと、住むところがないことなど、次から次へと話をした。
彼はそんな私の言葉を、全て受け入れ、頷きながら聞いてくれた。
そして彼が言った。
「ぼくも一昨日の豪雨で父を亡くしてしました。実家が倒壊してしまって。ぼくは隣町で一人暮らしをしているんですけど、そこも水に浸かっちゃって、こっちに来たしだいです。死んだ父は、『人を笑顔にするために生きるんだぞ』と口癖のように言っていました。だから、今していることは父への恩返しなんです」
彼の話を聞いて私はびっくりすると同時に、辛い思いをしながら頑張っている福井さんを愛おしく感じた。
「何か今の話聞いて、私もっと頑張ろうかなって思いました」
「ありがとう。でも無理しないでくださいよ。疲れすぎると体調壊したり肌が荒れたりするんで……」
「心遣いありがとうございます。無理しないように気を付けますね」
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