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懐かしい宝石箱
「じゃあ、あやめ、さくら。パパ、行ってくるね。」
「はーい。気を付けてね。」
「パパ、いってらしゃーい!」
仕事に行く友哉を送り出し、洗濯物を干していた時のことだった。
別の部屋で遊んでいたさくらが、箱のようなものを頭の上に乗せて、バタバタと走ってきた。
「ママ!ママ!これ、なに?」
「ん?なあに?」
さくらから受け取ったそれは、蓋に花が彫刻されている木製の箱だった。
「これ……。宝石箱だ……。」
「ほうせきばこ?」
あやめが、かわいらしく首を傾げる。
懐かしくて温かい気持ちが胸に広がる。
私はしゃがんで、さくらの頭を撫でながら言った。
「これね、ママのおばあちゃんの大切な物だったの。でもママがパパと結婚する時、おばあちゃんがくれたのよ。」
私がまだ小学生だった頃のこと。
おばあちゃんの家に遊びに行って、押入れの奥からこの箱を見つけた。
「これ、なあに?」
とおばあちゃんに見せると、おばあちゃんは懐かしそうに目を細めた。
「まあ……。これは亡くなったおじいちゃんがくれた宝石箱よ。」
「宝石箱?」
私は手の中にあるそれを見下ろして、じっと見つめた。
宝石箱というと、銀色とか金色とかの金属製で、もっとキラキラしているイメージだ。
これはどう見ても木でできているし、宝石箱というイメージからかけ離れている気がした。
まだ幼かった私は、真っ正直にそれを伝えた。
でも、おばあちゃんはにこにこしながら私の頭を撫でてくれた。
「それでもね、これはおばあちゃんにとって、大切な宝石箱なのよ。」
そう言って私に思い出話をしてくれたのだった。
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