懐かしい宝石箱

1/1
前へ
/15ページ
次へ

懐かしい宝石箱

「じゃあ、あやめ、さくら。パパ、行ってくるね。」 「はーい。気を付けてね。」 「パパ、いってらしゃーい!」 仕事に行く友哉を送り出し、洗濯物を干していた時のことだった。 別の部屋で遊んでいたさくらが、箱のようなものを頭の上に乗せて、バタバタと走ってきた。 「ママ!ママ!これ、なに?」 「ん?なあに?」 さくらから受け取ったそれは、蓋に花が彫刻されている木製の箱だった。 「これ……。宝石箱だ……。」 「ほうせきばこ?」 あやめが、かわいらしく首を傾げる。 懐かしくて温かい気持ちが胸に広がる。 私はしゃがんで、さくらの頭を撫でながら言った。 「これね、ママのおばあちゃんの大切な物だったの。でもママがパパと結婚する時、おばあちゃんがくれたのよ。」 私がまだ小学生だった頃のこと。 おばあちゃんの家に遊びに行って、押入れの奥からこの箱を見つけた。 「これ、なあに?」 とおばあちゃんに見せると、おばあちゃんは懐かしそうに目を細めた。 「まあ……。これは亡くなったおじいちゃんがくれた宝石箱よ。」 「宝石箱?」 私は手の中にあるそれを見下ろして、じっと見つめた。 宝石箱というと、銀色とか金色とかの金属製で、もっとキラキラしているイメージだ。 これはどう見ても木でできているし、宝石箱というイメージからかけ離れている気がした。 まだ幼かった私は、真っ正直にそれを伝えた。 でも、おばあちゃんはにこにこしながら私の頭を撫でてくれた。 「それでもね、これはおばあちゃんにとって、大切な宝石箱なのよ。」 そう言って私に思い出話をしてくれたのだった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加