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「そうした御二人のもとで働くなか、同じように自分の店舗を構えたいという願望が、次第に私の心に芽生えてきた。そして、それまでとは異なる人生を切り拓くうえで、自然体に生きるその姿勢を模範にしようと思った。このBEYOND THE HORIZONでは数か月の間働かせていただいたんだが、それは新たな航路へ舵を切るための、修練の期間でもあったんだ。だから、自己を見失っていた私を立ち直らせ、希望への道筋を見出すヒントを与えてくれた小嶋さん御夫妻は、生涯に渡って感謝し続けても足りないほどの恩人なんだよ」
「京介くんは本当に大袈裟ね。聞いていて恥ずかしくなるわ」
「でもまあ、そんなふうに思ってくれて光栄だな。歩み来た生き様を手本にしてくれる人がいる、それだけで私たちの人生は上出来だったと胸を張れるよ。こちらこそ、ありがとう」
京介さんはようやく微笑を浮かべ、畏まって礼を返すと、
「就業期間を終えた私は、その後新天地を求めて各地を巡り歩き、半年ほど経った頃に月夜里に辿り着いた。気候、風土、文化、そして住人たちの純朴な気質、それらの全てが自然と体に馴染むような居心地に、この町こそ再起を図るべく根を下ろすのに適った環境にあると、そう直感した。性急とも思えるそのインスピレーションを頼りに、しばらく滞在し生活感覚を掴んだ後に地元へ戻って母を説得し、会社員時代に稼いだ貯蓄を元手に一年をかけて店を建て、調理師免許を取得して開業へと扱ぎつけたんだ―――諸々の経緯を越えて立った第二のスタートラインに、様々な感慨が胸を去来した。しかしそのなかでも、離れ離れになった真咲と小夜への断ち切れぬ想いが、大半を占めて動かなかった。いつの日か二人が戻ってきてくれることを願い、ひたすら待ち続けるであろう己の深情を改めて確認した私は、尽きせぬ祈りを込めて店の名を『月夜物語』に定めたんだ。今から遡る、十年前の春先に」
「それじゃ、わたしや想樹さん、純が住まわせてもらっている部屋は……」
水澄さんの瞳が揺らめく先に、未だ見ぬ姿影が浮かび上がる。
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