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「純くんも相当なロマンチストね。それを小粋な表現でまとめるなんて、とても小学生とは思えないわ」 「夢想家なのは充分に自覚していますよ。理屈っぽく小生意気な小童だと思っているでしょう」 「ううん、そんなことないよ。昭人さんも言っていたじゃない。わたしと水澄も含まれているかどうかは別として」 「何のことですか?」 「活発で屈託の無い子どもたち」 「彩音さんはともかく、水澄さんは屈託が無さ過ぎて、僕もいささか呆れていて―――」  腕を組んで首を振ろうとした刹那、後ろから両頬を掴まれ外側に強く引っ張られ、 「この減らず口が!」 「あ痛たたたた……、背後からの不意打ちだなんて、武士道の精神に反するじゃないですか?」 「小生意気な小童の毒舌へお灸を据えるのに、正面も背後も関係ないわ」 「幼げな少年には寛大な処置も必要です」 「調子に乗るんじゃないの! 次はこの程度で許してあげないからね」  ようやく解放され、痛む頬を擦りながら、透希也と美優、杜宮さんまでもが笑い声をあげるのを軽く睨みつける。 「水澄さんと純って、やっぱり仲が良いよね」 「そうだな、本当の姉と弟という感じで。こういうのを何と言うんだっけ? 水が……、ええと」  首を傾げる透希也に彩音さんが顔をほころばせて、 「水が合う、じゃない?」 「それだ!」 「ちょっと待って、何か勘違いしているんじゃないの? 分をわきまえない不届き者へのお仕置きなのに」 「そうかしら? 二人とも、とても楽しそうに見えたけれど」 「それは誤解だわ。こんな不毛な応酬を月夜物語でどれだけ繰り返してきたことか」 「そんな日常的な遣り取りを旅の宿泊先でも交わせるなんて、気心の知れた者同士でしか出来ないわよ。お互いに信頼を通わせているのは、皆も知っているから」 「うーん……、なんとも善意的な解釈だけれども」 「ううん、場当たり的にこじつけた認識ではないのよ。高校に入学したときからずっと友達だったわたしだからこそわかるの。この春を境に、水澄は以前と少し変わったから」
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