第3話

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第3話

すると突然、湖の底から、ごごごごご……と重低音が響き、水面がうねりはじめた。 「うわっ」 若者はびっくりして、腰をぬかした。 水中から美しい女性がせり上がってきたのだから、無理もない。しかも、よくみると彼女の髪や衣服は、全く濡れた様子がない。 そして、女性の手には、奇妙な形をした金色の小瓶と銀色の小瓶がにぎられている。 「こんにちは。どうやら、お疲れのようですね。ところで、あなたが落としたのはこの動物の薬ですか?それとも植物の薬ですか?」 女性は若者の顔の前で、小瓶をちらつかせながら、たずねた。 0fe9609f-48d6-4efe-b64f-de2a919e529a 「へ?動物……?植物……?いや、これといってなにも落としてないですけど?」 「あら、なにも落としてない?おかしいわね。でも、さっき、動物になりたいとか植物になりたいとかって、そんなようなため息が落ちてきたんだけど」 「ああ、それか。それのことなら、おそらくわたしです」 「なんだ、やっぱりあなたでしたか。それはよかった」 女性はにっこり笑って、今一度若者の顔の前に小瓶をつきだした。 「ここに『動物になれる薬』と『植物になれる薬』があります。どちらかひとつ、お好きな方を選んでください。ちょうど今、お願いキャンペーン中なので、無料でさしあげますよ」 「お願いキャンペーン……ですか」 怪しい。怪しすぎる。若者は、顔を引きつらせた。 「あ。怪しいものではありません。わたしはこの世界では神様と呼ばれているような存在です。どうぞお見知りおきを」 「か、神様!?」 若者はすっとんきょうな声を上げた。どう考えても怪しさはマックスだが、確かに普通の人間なら、一滴も濡れずに水の中から登場できるわけがない。これは、ほんものかもしれない。だとしたら、ものすごいチャンスだ。 今どきの神様は、ずいぶんと軽いのりで願いを叶えるんだなと思いながらも、若者は動物と植物、どちらになりたいか、少し真剣に考えてみることにした。
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