天野君へ

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 夜八時の海岸は涼しくて、遠くの方の足下でさざ波が立っていた。  湿っぽい風が海から吹いてきて、磯の香りと冷たいしぶきを一緒に運んできた。  レジャーシートを広げた上に寝そべるのは二人。私と、天野君だ。天野君はきらきら光る星空を指差す。砂粒みたいな星ばかりだけど、天野君の指先は一際大きな砂粒を示していた。 「あれがデネブ。はくちょう座のしっぽ」 「ええと、あの十字架みたいなやつ?」 「そうそう、よくわかったね」  天野君と私は天文サークルのたった二人の二年生。星座がまったく詳しくない私に特別講座をひらいてくれたのだ。一年生の時に先輩から季節の星座は教わったものの一年も昔の話である。すぐに忘れてしまっていた。  いざ後輩に教えるとなったとき、何もわからなかったらヤバイ。先輩の威厳が保たれない。そんな経緯で大学終わりに海岸まで来たのだった。車を借りるのはちょっと勿体ない。バスも電車も帰りのダイヤが無くなるかも知れない。そんなこんなで自転車を漕ぐこと一時間。たどり着いた頃には太陽は海に吸い込まれ、車通りも減っていた。偶に通り過ぎるヘッドライトが少し眩しいくらい。目をつぶってやり過ごす。悪いことをしているみたいだった。
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