天野君へ

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「デネブカイトスって覚えてる? 秋の星なんだけど」 「あ、ええと。覚えてるよ、確か……なんだっけ」 「くじら座。もう、神話と一緒に習ったのに」 「ごめん。本当に物覚えが悪くて」  ちょっと責めるような声。でも本気じゃないのは知っていた。天野君は温厚で、先輩後輩問わず皆に優しい彼は、人を貶すような人間では無かった。彼はどこまでもやさしい。それが天野君のいいところだった。 「くじら座のしっぽ。デネブはアラビア語でしっぽって意味」 「へえ、そうなんだ」 「覚えやすいでしょ?」 「うん、覚えた」  よし、じゃあ次いこう。天野君の指が少しだけ傾く。 「はくちょう座よりもちょっと下、あ、南って言った方がいいかな」 「わかるよ。はくちょう座みたいな形してる」 「そうそう。一等星。一番光ってる星は分かる?」 「うん。今度は真ん中」  天野君はゆったりした声でわかりやすく教えてくれる。私が分からないところがないようにちょっとずつ言い換えてくれているのもわかりやすくて助かる。 「あれがアルタイル。わし座だよ」 「あ、小学校の時にやった気がする」 「有名だよね。僕も理科の授業でやった記憶がある」  緩く訪れる沈黙。ざざぁ、と波の音に気を取られる。一秒一秒時を刻んでいるはずなのにどうしてだろう、一秒が長い気がした。空を見続けたせいだろうか。
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