0人が本棚に入れています
本棚に追加
はくちょう座。その十字にしか見えなかったはずの空に、じわじわ広がるみたいにもやもやが見えてきた。もやもや、ううん、何て言えばいいんだろう。白い、雲じゃないけれど、もっと薄い、もやもや。
「天の川。白鳥が川の上を飛んでる様に見えない?」
そうか、あれが天の川。納得。
暗い中で目が慣れてきたのだろう、白鳥の下からじわじわと川が出現した。思わず息を呑む。
「不思議だね。山でもないのにこんなにしっかり星が見えるなんて」
深夜というわけでもないし、周りが真っ暗というわけでもない。私がそう言うと天野君はクスクス笑った。
「僕、天の川から来たから」
「え?」
何その冗談。面白くはなかった。けれど、本気なわけでもなさそう。いや、本気だったら困るよ。宇宙人じゃん。
「あの細かい星粒の一つが、僕の故郷なんだ」
「じゃあ、白鳥も見たことあるの?」
冗談に乗ってみることにした。すると天野君は驚いたのか、そうじゃないのか。一瞬言葉を詰まらせて、それからふ、と息を吐いた。
「あるよ。地球では見られないくらい凄く綺麗な白鳥だった」
「すごく大きかった?」
「うん、物凄く。飛行機よりも大きかった」
そこまで言って両手をばっと広げる。これよりも大きいぞ。
私が吹き出すと、天野君も声を出して笑った。全部冗談だよ。うん、知ってた。
最初のコメントを投稿しよう!