楽園 

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 こうした人間を、いつまでここの連中が受け入れられるのか? その実験のつもりではあったのだが、結果は実験前よりほぼ確定していた。 「ニールって、昨日『愛』に居たよね」 「確認しています」 「昨日も、私に同じことをされたよね」 「確認しています」 「覚えていないのかしら」 「データベースに、異常は見られません」 「なぜ、私に接触を試みたの?」 「『リセット』の影響化にあります」  彼女は、これを確認したかっただけである。  嘆息して髪を掻くと、ユーに指示をした。 「外、見せて」 「星外でしょうか?」 「うん。何度も言わせないで」 「了解しました」  画面が投影された。  黒い宇宙空間に、鈍い灰色の、巨大な円筒が浮いている。円筒の周囲には、無数の小さな光が、羽虫の如く飛び交っていた。 「今日は、まだ仕掛けてこないの?」 「行動パターンB515。直に始まるかと」 「あ、始まった」  羽虫の群れが、一斉に星へ目掛けて進み始めた。  群れの先頭が大気圏すれすれまで到達すると、先端から赤い光の弾を無数に発射する。  透明な層に触れると、「アルテミス」のシールドは部分的に赤く色づき、弾頭は爆破した。 「なに、あれ? 初めてみた」 「ミサイル、と呼ばれています。爆薬を搭載した兵器です」 「何それ? 少しだけ詳細に」 「爆薬とは、熱、衝撃により熱反応を誘発させる物質です。火薬により熱量を過度に与え、反応でエネルギー超過を起こします。ミサイルとはその入れ物であり、かつ任意誘導の機能を持たせた外殻です」 「なる。それって、なんか凄いね。任意の場所に、任意に恒星を作り出すって事でしょ? 一時的にだとしても。どうして、そんな物を今になって出してきたの? 初めからそうすれば良いじゃない」 「恒星とは原理が異なります」 「あっそ」 「彼等の技術レベルでは、重水素核反応の操作も容易です。むしろ、そちらが恒星に酷似します。それに比べれば、火薬のエネルギー転化量など、極めて微量です」 「あれで、微量? ……あ、そういう事ね。あれ以上も可能だけど、そうなると自分達の退避も必要となる。もしかして、燃料不足なの? あいつら」 「そのようです」 「『アルテミス』にぶつけるエネルギーより、あのデカイ筒を退避させるエネルギーの方が上……。だから、チマチマやってみている。……でもあれ、無人じゃないんでしょ? 今日も」 「生体反応あり。有人です」  アイは大きく嘆息した。 「どこの連中も、考える事は同じね。無駄が、お好きなこと」  画面を人差し指でタップし、別の画面に切り替えた。  文字だけが無数に流れる緑の液晶。  アイの面持ちは軽快な言葉とは裏腹に、真摯に強張っていた。 「そう、思っていると、足元を掬われる。そうでなければ、辻褄が合わなくなってしまう。私達の、現状と」
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