楽園 

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 緑の画面に人差し指を添えると、冷徹に声を荒げた。 「行くよ、ユー」  意気込む言葉に、機械的な反応が返ってくる。 「歴史の閲覧は、不可です」 「不可、じゃない。無いのでしょ?」 「回答は、規則に違反します」 「それ、答えているのと同じだけど」 「回答は、致しかねます」 「あっそ。じゃ、あんたは見張ってて」 「了解しました」  この了解に、信頼など寄せていない。  アイは片手を宛て言葉を発する。 「接続(アクセス)」  緑の光へ、飛び込んだ。  思念体を更にデータ化し、メインサーバーに侵入する。  メインサーバーへの接続は、規則で禁止されていない。  只、誰一人としてこれを行う者は居ない。  メインサーバーとは名目だけの名前であり、単に、サポーター達が生成されるだけの役割しか持っていない。  根本の規則は「憲法」という名の条項に準じて決定されている。  そうした「規則」の決定システム、根拠となるアーカイブが存在するとされているが、そんなものを見ようとしても意味が無い。  それ自体が「規則」に違反しており、番人であるサポーター達により排除されるだけであるし、そもそもアイは、規則の決定システム、アーカイブが存在するとも思っていない。  思わなくなっている、が正確だ。  ここ数年、999回の接続にも関わらず、その影すらも掴めていない。入れば入る程、潜れば潜る程、見えてきてしまうのだ。  この「エデン」に、管理者など存在していない。  人の総意で、「規則」は決定している。    生まれた頃、C層の頃から何度も何度も、A層連中に授業で教えられてきた基本道徳である。  でも、そんなものは嘘だと期待していた。  この世界の誰もが馬鹿で、阿呆で、無気力だ。  それを死守するかの如く、機械(サポーター)達が街を整備し、寝床を(なら)し、規則を堅守し、人を甘やかす。  こんな退屈な世界が、誰かの、何かの意識によって作り出されていなくては、許せない。  どこかの個人、誰かの恣意で作られていなくては、許せない。  自分が、こんな退屈を満悦しているなどと、認めたくはない。
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