楽園 

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 星の外に異星人が現れてから、その傾向はより強まった。  奴らは、人だ。  同じ見た目を持っている。捕らえた星外人類は公開されていて、みたままそのまま、彼女達と大して変わらぬ人であり、遺伝情報も同じである。  しかし、技術水準は遥かに劣り、彼女等の祖先が作った「アルテミス」を突破できないでいる。  思念体を作れば、あれを突破し、彼女等と交渉ができるはずなのだが、それが行われない以上、奴等はその水準に未到達である。  それなのに、なぜだろう。  生きていると感じたのだ。  この日の無謀な「ミサイル突撃」。あれはあれで、幾人かの死者は出したはずである。  こうした特攻を繰り返す理由は、おそらく一般物理エネルギーと思念エネルギーの原理的差異に到達していない為であり、つまり、重大な資源問題を抱えているからなのだ。  困難があるから、奴等は生気に溢れている。    生気があるから、選択を増やし、「不規則(イレギュラー)」を作り出す。 「不規則」があるから、「規則」が強まる。  その結果が、彼女達の今である。  論法としては正しいと思っているのだが、如何せん、その根拠をなすアーカイブが見つかない。  あったはずの、人類の過去が、どこにも見当たらない。  本当に、この世界の住人達は、過去を消去(デリート)してしまったのだろうか?  結論だけを押し付けられる後世の人間に、少しの懺悔(ざんげ)も感じなかったのだろうか?  まさかそれごと「リセット」してしまったのだろうか?  A層達の「意見」では、それが正解である。  999回の潜入にも関わらず、過去(これ)を見つけられないのだから、アイもそれを概ね確信している。  でも、知りたかった。  なぜ、我々は、こんな事になってしまったのか?  知らなければ、許せない。  怠惰が、安逸が、横暴が、許せない。  この日の侵入も発見はなく、「リセット」の時間が来てしまった。  アイは999日前のあの日から、決めていた。  「リセット」を潜り、千度目の夜がやってきて、その時尚、この恨事(こんじ)を抱えていたのなら、やりたいようにやってやる。  機械音が、脳裏に流れた。   「リセットの時間です。『帰還』を、始動します」  ふっと意識が途切れると、体に重力が宿っている。  背中には、柔らかなマットの厚み。  体に戻ったアイは、おいおいと涙を流し、目を擦った。 「リセットを、開始します」  必ず、覚えてやる。  絶対に、忘れるものか。  今日の私が、ここに居た事を。  千度目の私が、また、私であるように、と。
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