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織姫と彦星は年に一度、七夕にしか会えない。
もし七夕に雨が降れば天の川の水が溢れてしまって会えなくなり、織姫と彦星は会えないことに涙を流すそう。
その時に降る雨は催涙雨というらしい。
「そりゃ、会えなかったら泣いちゃうよね。」
ソファーの背もたれに腕を置いて、窓から雨が降る空を見上げて呟いた。
音を立てて私の気分まで下げるそれは、彼女たちの涙なのだろうか。
なんてロマンティックな事を思うには適していない、だらしのない恰好の私は缶ビールを片手に仕事のストレスに打ちひしがれている。
「…でもさ、一年に一度会えるだけ良いじゃん。その年に会えなくても、来年もその先も会える約束をしているんだから。」
缶の中身がもう半分以上減ってしまったのを勿体なく思いつつ、ちびっと飲んではまた愚痴をこぼす。
私が会いたい人は、急に現れてはまたすぐどこかへ行く気まぐれで、年に一度会えるかどうかも分からないような人。
もしかしたら、もう一生会えないかもしれない…。
「羨ましいなぁ。」
ぽそっとこぼれた小さな言葉はため息と一緒に雨の音でかき消された。
そんな事言ったってどうにもならないのは分かっている。
物理的にも遠くて、関係も曖昧で、私から会いに行く事も出来なくて…
どうせこんな声も届かないんだよ。
だったら、思うくらい良いじゃないの。
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