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「あなたはあたしの声を聞きなさいよ」
「ああ、そうだな」
口許わずかに緩ませた彼、その行動は素早い。
「わ、きゃ」
いつもながらにお嬢様抱っこ。いつまで経っても恥ずかしい。
「あ、の。いまから買ってくるからそれでどうにかご容赦」
「この時間にお前を外に出させたくはない。危険だ」
「ふっ、なにそれ。ねえ、それより夕飯出来てるから」
無視。シカトのほうがよっぽど問題に思うんだけど。
「ねえってば」
こうなるとなにを言っても無駄だ。あたしは大人しく洗面台前に下ろされて、
「ひょわぁあっ」
下ろされた。ちょっと待って。「寒――」
脱がされた。包みこまれた。右の首筋に顔をうずめられて、あたしは必然と鏡のある右を向かされる。
一糸まとわぬ自分を、仕事帰りのサラリーマンが抱きしめる倒錯的な構図。
「ぬ、脱ぎなよ」羞恥を隠しきれないでいると、
「食わせろ」
もう二度と、彼のおやつに手を出すのはやめようと誓った。
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