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#5 風邪を引いたあなたへ
暗くも明るくもなりきらない時分に目を覚ます。
からだのだるさは消え、熱は引いた。
けれど、あたしのからだは熱かった。
「起きてる……?」
あたしを守るかのようにくるむ腕。目が覚めているのはなんとなく、気配で分かる。
次第にクリアとなる薄闇の中、彼の手はあたしの前髪をかき分ける。
「ああ。大丈夫か?」
「もうすっかり」顔が見たいんだね、と気づくと頬がゆるんでしまう。
「なら、……良かった」
抱きしめる手にほんの少し力を込める。
「辛いなら我慢せず、俺に言え。何時でも叩き起こせ」
「あなたの寝起きって酷いのよ、ホントに」
「……努力する。俺は、」
目を合わせ、あたしの両頬を挟み込む彼の手。
「俺が知らない間にお前が苦しむことの方が苦しい」
こころをもあたたかく包む。
されど彼は思いつめた表情。やや眉をひそめて、手をあたしの両肩に下ろす。
「隠し事をされても、俺には全てが読み取れる。声や表情から、一発だ。だからもし、」
一旦言葉を切ると、
「気が変わるようなことがあれば言ってくれ。俺が気付く前に。頼む」
あたしは声を失った。
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