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なにを言っているのだろう、この人は。
時計の秒針が空しく響く。十秒、二十秒……。
渇いた喉と思考を動かそうとする。出た答えは、
「おバカさんね」
凍りついたままの鼻の先をぷに、と摘まむ。
「そんな生半可な覚悟で、あたしがあなたを選んだとでも?」
彼ほど感情が見抜けるなら、苦労のほうが多い。
「あなたは、好きで好きでたまらないから、あたしと一緒になったんでしょ。あたしも同じ」
他人の感情を見抜いては、自分の気持ちを押し殺して。ずっと、そうして生きてきたのだろう。
「あなたに見てほしくないとこなんて、あたしには少しもないの。全部見せたげたい」
自分がどれほど悲しい目をしていたのか気づいていない手のひらを両手で包み、
「今日もあなたが大好きってことを」
この鼓動に当てる。
人が赤面ものの台詞を伝えたというのに、この人は仏頂面でピキリと固まった。
「あ、の、蒔田さん。どうかされましたか」
「い、や、」
目が泳ぐ。珍しい。頬はほんの少し色味を増してるような……?
「照れてる?」
「ちげえ」
「素直になりなよ」
「俺に、素直になれというのなら」
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