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#6 役割への信念と陥落
あおーん、という遠吠えにぱっちり目が覚める。
ん……と瞼を擦ると、隣から伝わるかすかな揺れ。
「起きちゃった?」
ああ、と寝起きとは思えない声で答える彼。からだを起こしてみると、闇の中で青白く浮かぶ3:00。
せっかくの日曜日が。
一度起きたら眠れないのが蒔田家の鉄則。
というわけであたしの肩に手をかけて、強引とも思える手つきで胸板に招く彼。
悪くない。
むしろ幸せ。
寸法をはかったかのように、すっぽり彼におさまること。首筋に顔を寄せて感じる匂い。毎日浸れる、あたしだけの特権。
意識を保ったまま噛みしめられる時間が増えたのだから、愛犬に感謝しなきゃならないのかも。顔を埋めながら、にまにまが止まらない。
けれど、彼から伝わるのは苛立ちの気配。右足が細かく揺れるのはその兆候。
「解せねえな」
小さく息を吐いた彼が次になにを言うのか、心の中でちょっと身構えれば、
「お前を起こすのは俺の仕事だ。相手がショコラであっても譲る気はねえ」
「犬に負けたくないって、どんだけよ」
首筋に吸いついた唇を離し、顔と顔を向き合わせると、出迎えたのはしかめっ面。
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