#6 役割への信念と陥落

1/4
前へ
/852ページ
次へ

#6 役割への信念と陥落

あおーん、という遠吠えにぱっちり目が覚める。 ん……と瞼を擦ると、隣から伝わるかすかな揺れ。 「起きちゃった?」 ああ、と寝起きとは思えない声で答える彼。からだを起こしてみると、闇の中で青白く浮かぶ3:00。 せっかくの日曜日が。 一度起きたら眠れないのが蒔田家の鉄則。 というわけであたしの肩に手をかけて、強引とも思える手つきで胸板に招く彼。 悪くない。 むしろ幸せ。 寸法をはかったかのように、すっぽり彼におさまること。首筋に顔を寄せて感じる匂い。毎日浸れる、あたしだけの特権。 意識を保ったまま噛みしめられる時間が増えたのだから、愛犬に感謝しなきゃならないのかも。顔を埋めながら、にまにまが止まらない。 けれど、彼から伝わるのは苛立ちの気配。右足が細かく揺れるのはその兆候。 「解せねえな」 小さく息を吐いた彼が次になにを言うのか、心の中でちょっと身構えれば、 「お前を起こすのは俺の仕事だ。相手がショコラであっても譲る気はねえ」 「犬に負けたくないって、どんだけよ」 首筋に吸いついた唇を離し、顔と顔を向き合わせると、出迎えたのはしかめっ面。
/852ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1719人が本棚に入れています
本棚に追加