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「頼むから、寝てくれ」
「ふわぁ、い?」あくび交じりで答えれば、
「もう一度寝ろ。10秒でいい。起こす」
笑うなという方が無理だろう。
「何が可笑しい。俺は真面目に言っている」
「わ、わかったわかった。じゃあ、離して」
「離せだと!? お前は一体何を」
「わっ、わかったから、落ち着いて。とにかく寝るね。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
まさか彼のおやすみを毎日聞ける日が来るとは思わなかった。どうしてあたしはこんなに幸せなのだろう。
目を閉じる。目を開いても最上級があたしを待っている。
神様、どうかこんな日々がずっと続きますように。
などと闇の中でひとり祈っていれば、
「スー……」
三秒で始まる安らかな寝息。あたしの背中をぴったり押さえていた手のひらが離れる。って、
“自分が寝るのかよっ!”
内心絶叫。瞼を上げると、予想通りの事実が認められた。
「あっきれた」
けど、彼の寝顔はそんな感情をも消しさる、圧倒的な魔力を放つのだ。
普段身につけがちな警戒心を極限までほどき、子犬のように無垢であどけない。
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