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「これが怒らずにいられるか」と吐き捨てて座った。「想像だけでもお前が他の男に抱かれるなど」
「あたしじゃなくて、『ひな』って言うの」
「相手の男の名は」
「マサキ」
薄く開いた唇が固まった。
KYな名前を口にしたあたし自身よりも、その反応はショックだった。
続きは見たくない。だって、
「あたしのつまらない小説で過去を詮索するより、あなたには一つの過去を塗りつぶして欲しいもんだわ」
パソコンを膝からどかして今度はあたしが立った。
「離して」
「嫌だ」
後ろから腕を掴まれる。「こっち向け」
見せたくない。
「いま、世界で一番醜い顔してるから」
強く絡ませてくる指先。
「かずき、と聞けば俺は、世界で一人しか浮かばねえ」
あたしも思うのは同じ人。
「タスクといえばあいつしかいねえ。坂田もだ。お前に余計なもんを吹き込みやがった宮沢も、名を聞けばたった一人しか出てこない」
あたしは引き寄せられるままに、元いた位置にすとん、と落ち着いた。
横を向けば、
「過去を捨てるつもりはない。事実は事実だ」
悲しいほどの現実が待っていた。
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