#7 「お前、どんな携帯小説を書いてんだ」

2/10
前へ
/852ページ
次へ
「これが怒らずにいられるか」と吐き捨てて座った。「想像だけでもお前が他の男に抱かれるなど」 「あたしじゃなくて、『ひな』って言うの」 「相手の男の名は」 「マサキ」 薄く開いた唇が固まった。 KYな名前を口にしたあたし自身よりも、その反応はショックだった。 続きは見たくない。だって、 「あたしのつまらない小説で過去を詮索するより、あなたには一つの過去を塗りつぶして欲しいもんだわ」 パソコンを膝からどかして今度はあたしが立った。 「離して」 「嫌だ」 後ろから腕を掴まれる。「こっち向け」 見せたくない。 「いま、世界で一番醜い顔してるから」 強く絡ませてくる指先。 「かずき、と聞けば俺は、世界で一人しか浮かばねえ」 あたしも思うのは同じ人。 「タスクといえばあいつしかいねえ。坂田もだ。お前に余計なもんを吹き込みやがった宮沢も、名を聞けばたった一人しか出てこない」 あたしは引き寄せられるままに、元いた位置にすとん、と落ち着いた。 横を向けば、 「過去を捨てるつもりはない。事実は事実だ」 悲しいほどの現実が待っていた。
/852ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1720人が本棚に入れています
本棚に追加