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#1 洗濯物が乾く間に
丸かごから洗濯物を取り出して干していると、
「まだやっていたのか」
気配もなく背後に現れた彼。洗濯ばさみにかけた手が驚きに止まる。
彼は姿を見せぬまま、あたしの右手にひんやりとした手を重ね、
「急いで干してみろ。出来るだけ速く、だ」
離れたと思えば、後ろ髪をかきあげられ、寸時感じる空気。うなじに加わるざりざりとした温かみ。
「口、閉じとけ」
下のかごから取り出すべく腰を曲げても、容赦なく彼は付いてくる。息苦しさをもたらして、
「終わったら哭かせてやる」
などと刺激を与え続けるのだ。
丸かごの中身が空となる頃にはあたしの視界は滲み、息は上がり、物干し竿にかけた手で自分を支えてる状態となり。
「あ……の、立てない」
膝が崩れそうになると、
「必要ない」
その膝に回された手で、からだは宙に浮かされる。
頼れる手を膝下と背中に感じつつ、ガラス戸の閉まる音を随分遠くに聞いた。かすみがかった意識のまま薄目を開けると、
「寝室じゃないの?」
「掃除しといた」
着の身着のままの姿であたしを浴室に下ろした彼は、
「声を聞かせろ」
ドア音、続き鍵の閉まる音。ふらついて彼に支えられる自分自身。エプロンの後ろ紐が解かれる音と共にあたしは目を閉じた。
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