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「悪かった」そっと抱きしめられるだけで変な声があがる。からだがばらばらになったみたい。
あたしの意識は、崖に落ちるすんでの所で引っかかっていて、どうにか保たれている。
「ふぁっ……」瞼を拭う生あたたかさ。違う、唇。
触れて離れてが頻繁だから、きっとあたしは泣いている。
皮膚から染みいる彼の不安。
違う、と伝えたいのに声が出ない。感度は増すばかりでちっとも役に立たない。
まとまらないあたしという存在を、どうにか繋ぎとめて欲しいのに。と――
ぎゅううっと力が入る。包む腕に、手に。「あっ、あ」
「大丈夫だ。大丈夫……」
落ち着いた声に、支える肌に、少しずつ戻ってきた気がした。けど、
「うっ、わぁああん」止まらない。どこにどう持っていけばいいのかが分からない。
はだかの胸がどんどん濡れて行く。
すべてをぶつけながら次第に、意識が遠のいていくのを感じた。
頭の後ろを滑る手のひら。顔を動かせばみちゃり、肌が離れる音。
どちらも、涙と鼻水だらけだ。右頬には布の感触。寝てる、あたしは。
「落ち着いたか」冷静な声が降ってくる。
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