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#8 風邪が治りかけた貴女に
こん、こん、と薄闇の中を咳が舞う。刺すような喉の痛み。
右側で眠る彼に気がして、左を向くと、右わき腹を這う手。それは前の布をかき分けて進み、
「あぁあんっ」
なにこれ、と気づいたのは、とんでもなく恥ずかしい声を上げたあと。
瞬時に、羞恥の炎に燃える。
「なに、するの」
「止まったか」
「止ま……、って、手、離して」
無言であたしを解放した彼。あたしは胸を抑え込む。右が異常に熱い。
再び、咳き込む。
蒔田さんは起き上がる。なにか、からからとプラスチック音。
「ひゃっ」
唇の感触、注がれる冷たい液体。
―ー水を飲まされている。
情熱と冷たさをあたしはひたすら嚥下するしか出来ない。喉がごくごく鳴る。唾液までも飲み干す自分。
唇は離れた。移入の終わりに安心したのもつかの間、
「ま、待っ」続きを言うことはかなわなかった。
あたしの全てを味わいつくす、超技巧的なキス。
二秒で脳が崩れ、腰が砕け。ここがベッドでなかったらあたしはとっくに倒れている。目の前をちらちら花火が飛んで、からだをやわらかい電流が流れだす。
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