#8 風邪が治りかけた貴女に

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喉の奥は正直に呻く。それを聞き逃すはずのない彼は、あたしの後頭部を掴んで更に深く入る。涙が滲む。破れそうなのは鼓動じゃない。感情だ。 「ぷはっ」 空気が新鮮に感じた。瞼上げれば雫がこぼれる。拭う人差し指。見つめる漆黒の瞳。呼吸は一切乱れず、色のほども浮かんでおらず。 あたし一人が遊ばされている。 途端、どんどん涙が出てきた。 「ひど……い。なんでいきなり」 「嫌か?」 「ううん」 素直すぎる自分に我ながら落胆した。「けど……」 「けど、どうした」 「分かってるでしょう」 「何をだ」 幼子の髪を撫でるような手つきが憎たらしい。どこまでも言わせたいのだ、この人は。 「風邪、治りかけの時って、変、じゃない」 「そうだな」 冷静な声に、苛立ちが湧いてくる。 「だったら、そっとしといてよっ」 「出来る訳がねえだろ」 額に額を預けて、かすれた声で蒔田さんは言った。 「もう一度キスしたい。駄目か」 くらっくらする。 理性と体調を天秤にかけてみても、昂ぶった精神で答えをはじき出すのはいとも簡単で、 「されたい」
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