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喉の奥は正直に呻く。それを聞き逃すはずのない彼は、あたしの後頭部を掴んで更に深く入る。涙が滲む。破れそうなのは鼓動じゃない。感情だ。
「ぷはっ」
空気が新鮮に感じた。瞼上げれば雫がこぼれる。拭う人差し指。見つめる漆黒の瞳。呼吸は一切乱れず、色のほども浮かんでおらず。
あたし一人が遊ばされている。
途端、どんどん涙が出てきた。
「ひど……い。なんでいきなり」
「嫌か?」
「ううん」
素直すぎる自分に我ながら落胆した。「けど……」
「けど、どうした」
「分かってるでしょう」
「何をだ」
幼子の髪を撫でるような手つきが憎たらしい。どこまでも言わせたいのだ、この人は。
「風邪、治りかけの時って、変、じゃない」
「そうだな」
冷静な声に、苛立ちが湧いてくる。
「だったら、そっとしといてよっ」
「出来る訳がねえだろ」
額に額を預けて、かすれた声で蒔田さんは言った。
「もう一度キスしたい。駄目か」
くらっくらする。
理性と体調を天秤にかけてみても、昂ぶった精神で答えをはじき出すのはいとも簡単で、
「されたい」
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