1725人が本棚に入れています
本棚に追加
/852ページ
#2 シーツの行方
あ、シーツも洗わないと。
掛布団のカバーを居間で一人苦労しつつも外し、ベッドに近寄ると、
「寝てるのね」
魚市場に並ぶまぐろが一体。
「どいて」
「……」
「シーツ洗うから」
「……」
「起きてるでしょ」
「どかしてみろ」
薄い唇がやっと開いたと思ったら、これだ。
時折この人は意地となり止まらない。甘え方も容赦ない。
あたしは膝をついてベッドに身を乗りだし、彼の肩に手をかけて引きずるつもりだった。が、
「違うだろ」
肩にかけたあたしの左手首を掴み、あらぬ方向に持っていく。
「……!」
「来いよ」
答える間もなく彼の両手はあたしのセーターをたくしあげ、あたしに息を吹きかける。
「洗わないと」
「小学校のときに教わらなかったか」
彼はあたしのウエストを両手で挟み込み、あたしの位置を調整する。
「な……にを」
言葉と手と息だけで声が上擦る。こんなあたしの正体はきっと彼の前では丸裸。
「洗うまえに、汚せと」
嘘でしょ、と笑いたかったのに次の刹那、彼はあたしとセーターの間に顔を割り込ませ、軽口も叩けぬほどに貪り始める。呼吸が荒くなるのを感じながら、左手を下に割り込ませた。
*
最初のコメントを投稿しよう!