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#9 風邪を移された貴方に
風邪が治りにくくなった。
「けほけほっ」
現在歯を磨きながら出たての咳と格闘しているこの人と日々を過ごすようになってからというものの。
一足早く口をゆすぎ終えた彼は、大人しくベッドに向かうと思いきや。
「そっちじゃないでしょ」
ソファーに向かう腕を掴みに入る。
「信長が呼んでいる」
彼のゲームへの執着心には、ほとほと呆れる。
「戦国無双なんていつだって出来るんだから、とにかく治す。寝るのっ」
こん、とまた一つ咳込んだ彼は赤い目をして、
「ここで寝る」悪びれずソファーに座る。
手のかかる、大きな子ども。
「あなた、あたしがいなくても寝れるの? 一人で」
「無論だ」
よくもそんなことが言えたものだ。
夜中にあたしがトイレに立って戻ると、意識なくとも手を伸ばしてくるのは、抱き寄せて頬ずりしてくるのはいったい誰だと思っているのか。
思った全てを口にせぬのが結婚生活の心得。
時に、下向いて寂しさを演ず。
「あたし、マキがいないと眠れない」
「……そうか」
満足げな語感は隠しようもない。可笑しさをこらえながらあたしは彼に運ばれた。
せっかくの土曜日、休日の夜。
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