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普段と違う明日が訪れることに僅かながら安堵。大部分は、楽しみを奪われた気分が支配。
右向けば、右肩を下にそっぽ向く彼。
「マスクまでしなくても」
完全ガードを固められているようで、なんだかね。
「顔にマスクの線残っちゃうよ」
「上から重ねて隠せば良いだけの話だ」
「……かもね」
そう、この人はどう見られようが構いやしないのだ。
最大級に素晴らしい外見をしておきながら。
頼りがいのある背中。女であるあたしとはまるで違うからだ。白い喉仏、綺麗な鎖骨のライン。思ったより厚みのある胸板が恋しくて。
「離せ」
「寂しい」
その背に、頬をくっつける。
「顔、見せて」
彼は首を振った。「仕方ねえだろ」
「あたしに移して治せばいいのに」
「社会人失格だな」
「妻としては?」
黙り込む。熱い、すこし熱がある。布越しにもそれは分かる。
だから、期待してはなかったのだけれど、
「愛している」
からだの前面に回した手に、彼の手が重なる。
「一人で寝れねえくらいだ」
あたしの存在を確かめ、絡ませる指と指。
「一臣さん」
ふう、と息を吐く。
「こっち向いて」
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