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熱っぽい異性というのは、ときに魅力的だ。
ややうるんだ瞳、上気した頬。やや上がった呼吸ですら、いつも静かな息を繰り返す彼からすれば、性的な魅力を帯びて聞こえる。
不謹慎にも。
「しんどい?」
あたしは手を伸ばしてマスクを外す。
「……おい」睨んでくる彼の眼力はさほど強くはない。
辛いことは半分、楽しいことは二倍。
痛みは、与えては貰って。
風邪は、引いては移しての繰り返し。
たちの悪いオンラインRPG。
中毒性を宿す、淡い麻薬。
「いま、楽にしたげる」
触れてみた。指で、唇で。離しては触れると、次第に息が乱れてく。
割りいれて、引き抜いて、またなぞる。
やわらかな世界はよりたかまる。
あたしが急に解放すると、たまらずといった感じで彼は顔を上げ、
「ふざけてんのか、お前」
「やめて欲しい?」
「いや」
思わず口に出た、と顔に書いてある。
逃げかけた彼を挟んで逃さない。嘆息。咳はいつの間に止まっていた。
「己の口が呪わしい限りだ」
「そんなことないわよ」あたしは笑った。「あたしは素直な一臣さん、好きだな」
苦し紛れに、舌打ちをして彼は言う。
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