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#10 夫が掃除する間にしてはならないこと
うららかな春のひととき。ソファーで読む女性誌。毎年恒例のセックス特集に、頬を熱くするあたし。膝上には微睡むショコラ。――
「邪魔だ」
掃除機の柄を持ち上げて顔をしかめる旦那様。
いま、いい所なのに。
愛犬が心地よい眠りに堕ちかけているというのに。
彼に対する感謝の念よりも、邪魔された失望感が顔に出たらしい。
掃除機を下ろすと彼は、ショコラを両手で奪い上げて床に放流した。
「あ、ちょっと」と抗議の声を上げるや否や、手の中が空。雑誌をセンターテーブルに置いた彼は、
「どけ」
冷たく命じる。
「力づくでどかして欲しいのか」
あたしが立ち上がると、彼は柄の部分を外して掃除機をかける。
丁寧っぷりに白い目を向けたくもなる。
現在不在の布カバー。あれをクリーニングに出してるのは、誰かさんの暴挙のせいなんだから。
布紐のおもちゃをくわえる愛犬に歩み寄る。
お座りをして首をかしげるのだ。
『遊んで?』
笑みがこぼれるのを意識しつつ、遠く投げては戻り来る彼がぽとり落とすおもちゃを受け取る。一連を繰り返す。
従順で無邪気な甘えん坊。彼に対するあたしみたい。
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