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#11 板チョコがお嫌いというのなら
「……あれ?」
仕事帰りの彼が何かコンビニで買ってくか、と電話をしてきたから、あたしはチョコレートがいい、と頼んでいた。
手渡される袋の中に、板チョコが一枚。95円。
肩が落ちる。
「普通、もっと洒落たの買わない? ホ○ンとか、ガ○ボとか」
「貸せ」袋を奪い返す。
不機嫌そうな彼が何をするか見守れば、包装をべりべりと剥がし、ぱき、っと割った小さなかけらを、
――あたしの口に突っ込んだ。
ぱりぱり、と噛むあたし。監視者の目をした彼。
「なに……よもう」
ごくん、と飲み込むや否や、彼の手はあたしの目を覆い、
「閉じてろ」
真っ暗な世界に飛び込むと、攻撃的なキスが待っていた。
噛んで潰して引っ張られる。
こんなにいたぶられて、翌朝あたしの唇は大丈夫だろうか。
うごめく不安を凌駕する快感。口内甘ったるく、外は荒々しい。
絶妙なバランスに、あたしの精神は崩落寸前。
「んう……」実際体勢を崩すと、腰に支えが入る。
それと共に、舌が割って入る。
口を閉ざす余裕などなかった。
不必要な甘さを、あたしが深く知る彼の味が緩和して。
歯列をなぞられる度に香り立つカカオ。
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