#3 シンクに対する彼なりの見解

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#3 シンクに対する彼なりの見解

流しの前で食器を洗い終えて、ゴム手袋を外したそのとき。 突如、視界が真っ暗となる。それが彼の手だと気づいたときには、首筋を這う生温かさが加わり、 「はっ……」 それだけでがくっと膝が落ちる。この反応を見越したのか、後ろからがっちりとあたしの両肩を支える手。 左側から前へと彼の温かさは移動し、喉仏にたどり着くと執拗なまでにそこを攻めたてる。 顎が自然と上を向く体勢となるから、息があがる。まともに叫べない、逃げられない。逃げたくないのかが分からない。 白く染め上がる頭の中、彼が首元から顔を離すからようやく、自分が目を閉じていたことに気がついた。薄目を開いて現実を視認するその前に、 「ひゃっ」 脇下に手が入り、からだが宙を浮く。ついで、お尻の下に冷たく固い感触。 キッチンのカウンターだ、と気がついたときには、大きな手のひらに両耳を塞がれ、あたしの口内は彼の侵入を許していた。 これ以上に情熱的な舌をほかに知らない。 閉じ込められた聴覚、水音が脳内を満ち響く。彼はあたしの脳髄まで舐めつくしてしまう勢いで貪り、ことごとく存在を凌駕する。
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