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そしてあたしは、感じるだけの本能と成り果てる。
暗闇の中をきらめく淡い光彩――届かない、脳の裏に存在する見えない景色を覗き見る。霧がかった世界。
瞼のふちが滲み、細かく震えているのが自分でも分かる。閉じたあたしの膝頭を開く彼の手。もっと深く入るため。そう思うとまたからだの芯が疼く。けれど、
「んぅっ……」
急に動きが止まった。満たしていた存在が引き抜かれ、遠のいていく。うっすら瞼を上げると、あたしと彼を繋ぐ糸が明かりを受けて淫靡な乱反射を放つ。
自分の表情は見なくても分かる。
これ以上ないほどに物欲しそうな顔をしているはずだ。
彼はその糸をたどり、あたしの唇をついばむように舐めた上で、あたしの髪に触れる。それだけで肩がびくん、と跳ね上がるのが情けない。
そして彼は、とてもつい先ほどまで愛妻に深く口づけていたとは思えないほどの仏頂面をして、ほんのちょっと眉をしかめるのだ。欲情の欠片もない、だが色香のほどはただよわせた目で。
「ここじゃ、冷たいだろ」
左手がどこにあるのかを理解した。あたしの膝横に付いて冷たく感じたのだ、きっと。
「い、いえいえ。全然平気」
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