1725人が本棚に入れています
本棚に追加
/852ページ
頬を、壊れものでも触れるように撫でてくる手。にも関わらず、あたしがこう言うのには理由がある。
「平気なはずはない。無理はさせられない」
いえ、あなたの相手をしていること自体、既に無理があるんですが。
なにも答えぬ態度を肯定と受け取ったのか。軽々とあたしを持ちあげて、寝室へといざなった。
運ばれつつもあたしは、自分に言い聞かせる。
あんな風に優しい顔を見せたからといって、だまされてはいけない。あれは、
――攻め立てる兆候だ。
* * *
「言え」
予想通りだった。
ベッドでうつぶせに寝かされ、腰の後ろに回された両手。片手一本で封じるのは彼。全体重をあたしにかけないところは優しさなのだが、
「食器を洗う神聖な場所を前にして、お前は何を想像した」
左後ろを無理に見させられ、拷問者とも言えなくもない目に捕らわれる。
「俺に、これからどうされると思ったのか。言ってみろ」
「その神聖な場所で口づけてきたのはあなた――」
言えなかった。
人差し指が突っ込まれた、からだ。
最初のコメントを投稿しよう!