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指を引き抜いた彼は、どちらのものとも分からず濡れたそれであたしの首筋に触れ、血管に沿って細い線を描く。
顎先まで行ったと思えば鎖骨まで繊細なタッチを与え。往復する道筋に、止まらぬ嬌声、こみ上げる涙。
その上、熱い吐息を耳に吹き入れて、
「浮かんだままでいい、吐け。楽になれるぞ」
などと囁く。あたしはそれだけで昇りつめそうだった。
それを許すはずもない彼は、前進と停止を織り交ぜて、
「お前が言えば、望む通りにしてやる。何でも、だ」
餌を目の前でぶらつかせるのだ。
もう、限界はとっくに超えている。
幾度も幾度も繰り返され、結局、あたしはわらをもすがる勢いで、
「おね、がい。あ……」
この一言で全てを止めた。うつぶせのからだを、意外と優しい手つきで反転させる。一息つく間もなく、いつも通りあたしの右隣りに寝そべった彼はあたしの手首を持ちあげて、
「俺に分かるように、見せてみろ」
本当に、なんでこんな人を選んでしまったのだろう。
熱に浮かされた思考で、覚悟を決めて彼の手を取った。
「あの、あたし――」
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