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「なに──」
振り向こうとしたら袖を引かれた。
タクが私の袖を後ろに引いて、押し倒す。湿っぽい草の上に頭をぶつけた感覚と一緒に、タバコの臭いがした。何故だか、夜の匂いだと思った。
タクの顔がいつの間にか目の前にあって、ようやく状況を把握する。
その途端、顔が真っ赤になったのが自分でも分かった。
「た、く……──?」
長い前髪の隙間から、至近距離で黒い、タクの瞳が私を覗いていた。
暗い。夜をそのまま溶かし込んだみたいな、何処までも深い瞳。
何処か、悲しそうな目だと思う。目の前で何か言いたげに緩く、長いまつ毛が震える。
吸い込まれそうな瞳がさらに近付いてきたので、思わず目をつむる。
しかし、タクはそれ以上何をすることもなく、そのまま自分はすぐ隣に仰向けになってひっくり返った。
「……ちょっと。服汚れるんだけど」
火照った頬に手を当ててようやくそれだけを口にすると、タクは手に持っていたタバコを加えなおして、飄々とした声で言う。
「もうすぐ流星群が見えるらしい」
「え、ホント?」
「ホントに」
「だから、見るのはこっち」素っ気なく言って、タクは私の顔を不器用な手つきで上に向ける。
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