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上を向くと、満天の星空が眼前に広がった。
手を伸ばせば届きそうなほど近くで、空の宝石がキラキラと輝く。まともに星を見たのはいつぶりだっただろうか。都会の空気は忙しなくて、生きるってだけで大変で、時々星が綺麗だってことも忘れてしまう。
そんな何気ない大切なことを思い出させてくれるのはいつも、タクだった。
「綺麗……」
「そうだよ──」
耳元で、タクが囁いた。それが少しこそばゆくてクスクスと笑うと、タクも珍しく小さく笑ったらしいのがその吐息で分かった。
その瞬間だけは、この広い星空は全部、私達二人のものだった。今ならきっと、宇宙への距離だって問題じゃない。
思いを馳せたのは、タクの話した宇宙のオデッセイのことだった。
目の前に近付いたそのオデッセイの旅路を、私はよく知らない。でもきっと、今でも宇宙のオデッセイはこの広い宇宙の何処かを旅してるんだろう。
宇宙の旅人は、いつか地球に帰って来るまで、ずっと、ずっと、虚空を彷徨って。帰る場所を夢見ている。
「──あ、流れ星」
「え、どこ」
「ほら」
タクが空の一点を指差す。
その声を合図に、空の宝石が降ってきた。細い光の筋が、火の玉に替わって世界を一瞬明るく照らす。
流れ星なんて見るのは初めてだった。思ったよりも一瞬で、咄嗟に願い事なんて思いつかない。忘れたころに時々キラリと光の筋が過ぎ去っていく、静かな星空から目が離せなかった。
暫く何も言えずに、二人でずっとそれを見つめていた。微かに聞こえる虫の音やタバコの臭いごと、落ちた沈黙が心地良い。
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